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東京地方裁判所 平成元年(特わ)2109号 判決

本店所在地

東京都文京区湯島四丁目六番一一-三〇七号

東京恒産株式会社

(右代表者代表取締役 小川五郎)

本籍

東京都文京区湯島四丁目一番地

住居

同都同区湯島四丁目六番一一-三〇七号

会社役員

小川五郎

昭和七年三月二七日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東京恒産株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人小川五郎を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人小川五郎に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東京恒産株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都文京区湯島四丁目六番一一-三〇七号に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人小川五郎(以下「被告人小川」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたもの、分離前の相被告人武捨義隆(以下「分離前の相被告人武捨」という。)は、同社の取締役としてその経理事務に従事していたものであるが、被告人小川は、右武捨と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売買取引につき架空外注費を計上し、被告人小川の貸付金を被告会社に仮装譲渡して資産計上した上、その一部を貸倒金として損金計上する等の方法により所得を秘匿した上、昭和六〇年八月一日から昭和六一年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九四六八万五八三九円(別紙1修正損益計算書参照)で、課税土地譲渡利益金額が二億五一八三万六〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和六一年九月三〇日、同都同区本郷四丁目一五番一一号所在の所轄本郷税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が一六七七万二七二四円で、課税土地譲渡利益金額が一億六九九八万八〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三三九九万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第一三五四号の2)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九〇三八万一八〇〇円と右申告税額との差額五六三八万四二〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人小川の当公判廷における供述

一  被告人小川の検察官に対する供述調書五通

一  分離前の相被告人武捨の当公判廷における供述

一  分離前の相被告人武捨の検察官に対する平成元年一〇月一〇日付け、同月一一日付け(本文九丁のもの)、同月一九日付け、同月三一日付け、同年一一月三日付け、同月四日付け及び同月八日付け(本文九丁のもの)各供述調書

一  福田博司及び松島吟次郎の検察官に対する各供述調書の謄本

一  山崎光雄の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察事務官作成の平成元年一二月一一日付け捜査報告書三通

一  大蔵事務官作成の調査書一六通

一  登記官作成の平成元年六月二九日付け登記簿謄本

一  本郷税務署長作成の昭和六二年七月七日付け証拠品提出書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成元年押第一三五四号の2)

(法令の適用)

被告人小川の判示所為は刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、また、同被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一五〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人小川が、分離前の相被告人武捨と共謀の上、都心の千代田区八重洲の宅地を入手してこれを転売し、種々の利益を得ようとした者に協力し、転売を重ねる方法で譲渡人の名目の売買差益を秘匿させる外、自ら転売差益の一部を得ようと考え、休眠会社の法人を取り戻した上、商号、目的等を変更して被告会社とし、右土地を譲り受けた後直ちに指示どおり譲渡し、簿外で利益分配金(一部は仕入代金)を支払う一方、所得あるいは課税土地譲渡利益金額を圧縮するため、判示のとおり架空外注費、架空の貸倒損金を計上する等した事案であり、被告会社の営業活動自体、右土地売買取引を通じた利益作出と関与した当事者の利益隠匿に協力したもので、土地重課制度の趣旨に悖る行為であること、そのほ脱の方法も計画的で巧妙であること等を考慮すると、被告会社、被告人小川の刑事責任は重いというべきである。

他方、本件ほ脱税額は、利益分配金二億円が所得算出上損金と認容されたため、五六三八万円余と必ずしも高額ではないこと、被告人小川は本件を反省の上、修正申告(但し、課税土地譲渡利益金額については、右分配金を実績による販売費及び一般管理費に加算したことにより減額したもの)し、本税、附帯税を納付したこと、同被告人は、右武捨の誘いに応じ右取引に関与し、ほ脱工作についても従属的な面があること等被告人らに有利な事情もある。

よつて、これらの事情を総合考慮し、被告人らに対し主文掲記の刑を量定した上、被告人小川に対しては、右情状に鑑み、その刑の執行を猶予することとする。

(求刑 被告会社につき罰金一七〇〇万円、被告人小川につき懲役一〇月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 柴田秀樹 裁判官 曳野久男)

別紙 1

修正損益計算書

東京恒産株式会社

自 昭和60年8月1日

至 昭和61年7月31日

〈省略〉

別紙2

脱税額計算書

自 昭和60年8月1日

至 昭和61年7月31日

東京恒産株式会社

〈省略〉

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